リールベアリングとは?追加・交換とメンテナンスを徹底解説

リールのスペック表を見ると必ず記載されている「ベアリング数」。6/1や10/1といった表記の意味や、その数が多ければ多いほど良いリールなのか、疑問に思ったことはないでしょうか。また、リールの性能を維持・向上させるためのメンテナンスとして、「オイルとグリスの使い分け」や「ベアリングの洗浄・交換」、さらには「ベアリングの追加」といったチューニング(カスタム)に関心を持つアングラー(釣り人)も多いでしょう。
しかし、ベアリングは非常に精密な部品(パーツ)であり、その役割や正しいメンテナンス方法、交換・追加による効果とデメリットを正確に理解しておくことが重要です。
この記事では、リールベアリングの基本的な役割から、スペック表の見方、適切なメンテナンス方法、そして性能を向上させるチューニング(交換・追加)のメリットと注意点まで、体系的に解説します。
リールベアリングとは?その基本的な役割
リールベアリングとは、リール内部の回転する「軸」の摩擦を減らし、回転を滑らかにするための部品で、「玉軸受(たまじくうけ)」とも呼ばれます。金属の輪(レース)の間に、複数の小さな金属球(ボール)が組み込まれた構造が一般的です。
リールにおけるベアリングの主な役割は、**「回転性能の向上」と「耐久性の維持」**です。
ハンドルやスプール(釣り糸を巻く部分)など、回転する箇所にベアリングが組み込まれていると、負荷がかかった状態でも滑らかに回転し続けます。もしベアリングがなく、軸が直接本体と擦れ合う構造(プラスチックのカラーなど)の場合、摩擦抵抗が大きくなり、巻き心地が重くなったり、摩耗が早くなったりします。
主にベアリングが搭載される箇所
- スプール軸(ベイトリール): キャスト時の飛距離に直結する最も重要な部分です。
- ハンドル軸(左右): ハンドルの滑らかな巻き心地を支えます。
- メインギア軸(左右): 魚とのファイト中など、強い負荷がかかった際の巻き上げ力を支えます。
- ラインローラー(スピニングリール): 糸ヨレを防ぎ、ライン(釣り糸)の滑りを良くする重要な部分です。
- ハンドルノブ: 指で触れる部分の回転を滑らかにし、感度を向上させます。
「ベアリング数」の表記と効果の違い
リールのスペック表で見られる「ベアリング数 6/1」といった表記は、リールに搭載されているベアリングの総数と種類を示しています。
「ボールベアリング / ローラーベアリング」の表記
この表記は、一般的に**「(ボールベアリングの数) / (ローラーベアリングの数)」**を意味します。
- ボールベアリング (BB: Ball Bearing): 前述の、回転を滑らかにするための「玉軸受」です。この数が多いほど、リールの各所が滑らかに回転する設計になっているといえます。
- ローラーベアリング (RB: Roller Bearing): これは主に、ハンドルの逆転を瞬時に止める「インフィニットアンチリバース(ストッパー)」機構に使われる、特殊なベアリング(ワンウェイクラッチ)を指します。回転を滑らかにするBBとは役割が異なります。
つまり、「ベアリング数が多い=高性能」というのは一概には言えません。重要なのは「ボールベアリングが、スプール軸やメインギア軸、ラインローラーといった**“適切な場所”**に使われているか」です。安価なリールで「ベアリング数10」とあっても、その多くがハンドルノブに集中し、肝心のスプール軸の品質が低い、といったケースも存在します。
リールベアリングのメンテナンス(洗浄・注油)
ベアリングの性能を維持するためには、定期的なメンテナンスが不可欠です。異音(「シャリシャリ」「ゴロゴロ」音)がする場合は、内部のオイル・グリス切れや、汚れ・錆(さび)が原因である可能性が高いです。
オイルとグリスの正しい使い分け
メンテナンスの基本は、適材適所でのオイルとグリスの使い分けです。
- リールオイル(低粘度):
- 適した場所: 高速で回転する部分。
- 具体例: ベイトリールのスプールベアリング、スピニングリールのラインローラー部。
- 特徴: 粘度が低く、回転抵抗を最小限に抑えます。飛距離や回転レスポンスを重視する箇所に使用します。
- リールグリス(高粘度):
- 適した場所: 高い負荷がかかる部分、回転速度が比較的遅い部分、防水性を高めたい部分。
- 具体例: ハンドル軸の根元のベアリング、メインギア、ハンドルノブ内のベアリング(しっとりした巻き心地が好みの場合)。
- 特徴: 粘度が高く、油膜が切れにくいのが特徴です。耐久性や防水性、滑らかさ(静粛性)を重視する箇所に使用します。
ベアリングの洗浄(脱脂)方法
「シャリシャリ」といった異音が続く場合、内部の汚れを落とす「洗浄(脱脂)」が必要です。
- 取り外し: リールからベアリングを取り外します。ベイトリールのスプールピンなど、専用の工具(ベアリングリムーバー)が必要な場合があります。
- 洗浄: フタ付きの小瓶などにベアリングを入れ、パーツクリーナー(プラスチックを侵さないタイプ)や専用のベアリングクリーナーを注ぎ、振って内部の汚れを溶かし出します。
- 乾燥: 洗浄液から取り出し、ティッシュやウエスの上で完全に乾燥させます。
- 注油: 乾燥後、目的に応じてオイルまたはグリスを適量(オイルなら1滴程度)注油します。
【注意】 CRC 5-56やシリコンスプレーなどの汎用潤滑剤は、リールの精密ベアリングには適していません。これらは一時的に滑らかになっても、油膜が飛びやすく、内部のグリスを洗い流してしまい、かえってベアリングの寿命を縮める可能性があります。必ず専用のリールオイルまたはグリスを使用してください。
リールベアリングのチューニング(交換・追加)
リールの性能をさらに引き出すため、ベアリングの「交換」や「追加」といったチューニングが行われます。
ベアリング交換の効果(主にベイトリール)
ベイトリールにおいて最も効果的なチューニングが「スプールベアリングの交換」です。
純正のステンレス製シールドベアリングから、ヘッジホッグスタジオ(HEDGEHOG STUDIO)やZPI、KTFといった専門メーカー製の高性能ベアリング(高精度ステンレス、セラミックベアリングなど)に交換します。
- 効果: ベアリングの回転抵抗が極端に少なくなるため、スプールの回転の立ち上がりが良くなります。これにより、軽量ルアーのキャスト性能が向上し、低い弾道でのキャスト(スキッピングなど)が容易になるメリットがあります。
ベアリング追加の効果(主にスピニング・ベイト)
多くのエントリー〜ミドルクラスのリールでは、コストダウンのためにベアリングの代わりに**「プラスチックカラー(ブッシュ)」**が使われている箇所があります。このカラーを、同サイズのベアリングに交換することを「ベアリング追加」と呼びます。
- 主な追加箇所: ハンドルノブ、スピニングリールのスプール受け軸、ラインローラー(1BB仕様のものを2BB仕様にするなど)。
- 効果: ハンドルノブに追加した場合、巻き感度が向上し、水中の僅かな変化やルアーの動きを感じ取りやすくなります。
ベアリング追加・交換のデメリットと注意点
ベアリングチューニングはメリットばかりではありません。実行する前に、以下の注意点とデメリットを理解しておく必要があります。
- メーカー保証の対象外となる リールを分解し、純正パーツ以外(社外ベアリング)に交換した場合、メーカーの修理保証やオーバーホールサービスが受けられなくなる可能性が非常に高いです。チューニングは全て自己責任となります。
- メンテナンス頻度の増加 特に「オープンタイプ」や「セラミック」などの高性能ベアリングは、回転性能を追求するあまり、防錆性や防塵性が純正ベアリングより低い場合があります。そのため、純正品よりもこまめな洗浄と注油が必要となり、メンテナンスを怠るとすぐに回転不良や異音(ゴロゴロ感)が発生します。
- 異音(ノイズ)の増加 これは「デメリット」であり、同時に「高感度の証」でもあります。ハンドルノブなどにベアリングを追加すると、プラスチックカラーが吸収していたギアの微細な振動(ノイズ)まで手に伝わるようになります。これを「感度が上がった」と感じるか、「ノイズが気になる」と感じるかは個人差があります。
- 海水(ソルト)使用でのリスク 防錆性能が低いベアリングを海水で使用すると、すぐに錆が発生し、固着するリスクがあります。海水対応を謳(うた)う高性能ベアリングもありますが、純正の防錆ベアリング(シマノのS A-RBなど)以上のメンテナンスが求められます。
ご自身でのメンテナンスやチューニングに不安がある場合や、異音が改善しない場合は、専門の修理・買取業者に相談するのも一つの方法です。釣具買取専門店タックルラウンジでは、リールの状態も加味した査定を行っております。
ベアリングの選び方(サイズ・種類・メーカー)
ベアリングを交換・追加する際は、正しい「サイズ」と「種類」を選ぶ必要があります。
サイズの確認方法
ベアリングのサイズは「外径」「内径」「幅」の3つの寸法で規格化されています(例:1030 = 外径10mm, 内径3mm)。
- リールの展開図(パーツリスト)で確認する: メーカー公式サイトでリールの展開図を調べ、該当箇所の部品番号や規格を確認するのが最も確実です。
- チューニングメーカーの適合表で確認する: ヘッジホッグスタジオなどの専門店のWebサイトでは、リールのモデル名から適合するベアリングサイズを検索できます。
- 現物(カラー)を測定する: 追加したい箇所のプラスチックカラーをノギスで正確に測定します。
主なメーカーと購入先
- 純正パーツ: シマノ、ダイワ(SLP WORKS)から純正品を取り寄せることができます。最も安心ですが、高価な場合があります。
- 釣具チューニングメーカー: ヘッジホッグスタジオ、ZPI、YTフュージョンなど。リール専用に設計されており、高品質ですが高価です。
- 産業用ベアリングメーカー: ミネベア(NMB)やNSKなど。産業用の高精度ベアリングを安価に入手できる場合があります。「ミネベア DDL-1030ZZ」のように型番を指定して購入します。
- ホームセンター: ホームセンターで販売されているベアリングは、リールのような精密・高速回転を想定していない低等級品(規格外品)が多く、性能低下や異音の原因となるため使用は避けるべきです。
まとめ
リールベアリングは、リールの回転性能を支える心臓部です。
- 役割: 摩擦を減らし、回転を滑らかにする精密部品です。
- ベアリング数: 「ボールベアリング」と「ローラーベアリング(ストッパー)」の合計数で表記されるため、数だけで性能は決まりません。
- メンテナンス: オイル(高速回転部)とグリス(高負荷部)の使い分けが重要です。異音が出たら洗浄(脱脂)と注油が必要です。
- チューニング(交換・追加): キャスト性能や巻き感度の向上が期待できますが、メンテナンス頻度の増加や保証対象外になるといったデメリットも存在します。
- 選び方: 必ずリールに適合する「サイズ」と「規格」のベアリングを選び、信頼できるメーカーの製品を使用してください。
ベアリングの特性を正しく理解し、適切なメンテナンスやチューニングを行うことで、お手持ちのリールの性能を最大限に引き出し、長く愛用することができます。
FAQ(よくある質問)
Q1: リールベアリングの「数」が多いほど良いリールですか?
A1: 一概には言えません。重要なのは「数」よりも「質」と「配置」です。例えば、スプール軸やメインギア軸といった重要な箇所に高品質な防錆ベアリングが使われていることが重要です。また、スペック表記の「/1」は、逆転防止用のローラーベアリングであり、回転性能とは直接関係ありません。
Q2: ベイトリールで飛距離を伸ばすには、どのベアリングを交換すれば良いですか?
A2: スプール本体、またはスプール軸を両側で支えている2つの「スプールベアリング」です。これらを低摩擦の高性能ベアリングに交換することで、スプールの回転抵抗が減り、特に軽量ルアーの飛距離が伸びる効果が期待できます。
Q3: ハンドルノブにベアリングを追加する効果は何ですか?
A3: 主な効果は「巻き感度の向上」です。ノブの回転が滑らかになることで、水中のルアーの微細な振動や、魚が触れただけの僅かなアタリ(違和感)が手に伝わりやすくなります。
Q4: オイルとグリス、どっちを使えば良いですか?
A4: 高速で回転し、回転抵抗を減らしたい場所には「オイル」(ベイトスプール、ラインローラー)。高い負荷がかかり、耐久性や防水性を重視する場所には「グリス」(ギア、ハンドル軸)と使い分けるのが基本です。
Q5: ベアリングから「シャーシャー」「シャリシャリ」音がします。
A5: オイル切れ、または内部に微細なゴミや塩が侵入したサインです。放置すると錆や摩耗(ゴロゴロ感)に繋がるため、早めにベアリングを取り外し、洗浄(脱脂)と注油(オイルアップ)を行ってください。
Q6: ホームセンターのベアリングはリールに使えますか?
A6: 推奨しません。ホームセンターなどで安価に販売されているベアリングは、リールに求められる高精度な回転性能(等級)や防錆性能を満たしていない場合がほとんどです。異音や性能低下の原因となる可能性があるため、必ず釣具用か、ミネベア(NMB)などの信頼できる産業用メーカー品を選んでください。